ハケンアニメ(下)
馬鹿みたいに飲み食いをした翌日。欠勤の連絡をして、やはり続けようと考え直しもしたけれど、今月の時給が760円になることいに思い当たり、やはりこの仕事は辞めることにした。モチベーションはなくなって、辞める連絡もできない。午前中はずっと寝ている。何も考えずに寝ているだけである。
午後に起きた。さすがに、何も考えないわけにもいかない。制服はロッカに残してあるけれど、ロッカの鍵を持ってきたままである。これは返さなければいけない。無断欠勤、続いて、無断退職する手前、職場まで返しに行くことは憚られる。というか、怖いだけである。卑怯ではあるけれど、鍵は郵送で返すことにした。もう辞めると決めたので、寝ていても意味がない。すぐに切手を買ってきて、鍵を返す準備をする。さすがに、自分の名前と住所を書かないわけにはいかない。この会社との関わりはこれで最後だと勝手に決めて、自宅近くのポストへすぐさま投函してくる。はい、おしまい。
同じ日に登録をした、もうひとつの派遣会社に電話を掛ける。実は1度、携帯電話に着信が残っていたのだが、もうひとつの仕事を始めたこともあり、そのまま放置していたのだ。しかし、状況が変わった今となっては、こちらから掛け直さねばならない。面接から2週間以上が経つけれど、12時間拘束のあの仕事なら、そう簡単に人は集まっていないだろう。労働時間が長い分、給料も多く入るのだ。それならそれで構わない。
冷静に考えると、支離滅裂なんだけど、とにかく次の仕事を探すが優先になっていた。焦って仕事を探すべきではない。それは解っているのだけれど、とにかくお金が必要で、働かなければいけない状況に陥っているのでどうしようもない。給料が多くて、週払い可能。そこにしがみつこうとしているのだ。
予想通り、採用枠はまだ残っていた。明日面接をしてもらうことになった。展開が早いのはありがたい。最初に応募した求人がどうなったのか、連絡をくれたのはどの仕事のことだったのか、これらはまったく訊かなかった。面接に行った時点で、望み薄だと感じていたのだ。どちらにしろ、新しい仕事が見つかるのならそれで良い。まあ、訊くだけ訊いてみても良かったけれど、次の仕事に応募できるかどうか、12時間拘束の仕事を始められるかどうか、そちらの方が気になっていたのだ。
工場最寄り駅まで自転車で行き、そこで担当者と合流。車の中で説明を受け、そのあとに工場へ行くという流れ。喫茶店での面接でなくて助かった。もっとも、面接というものはなく、工場を見学したあとで僕が大丈夫と言えば、まず採用してもらえるとのこと。そうなれば、お願いします、と言うしかない。もう、あとがないのだ。
本社で説明を受けたときと、仕事内容が違ったり、出勤時間が違ったり、耳栓とベルトが必要だとか、知らない条件がいくつも出てきたけれど仕方がない。ある程度の不満はあっても当たり前だろう。とにかく、枠が空いていた、ということに感謝しなければ。
仕事に対しては、与えられたことをやるしかない、と割り切っていた。訊きたかったのは週払いのことで、少しでも早くお金が必要な僕には、こちらの方が重要だったのだ。税金のこともあるし、1日分を全額支払ってくれるは考えていなかったけど、まさか3000円とは予想していなかった。何時間働こうが1日3000円、月から金の5日分を週払いで、1万5000円。その上、手続きをするのに1週間掛かり、年末年始は週払いがない。来週から仕事を始めても、最初に支払われる給料は1月16日になるという。1カ月もあとになる。
これを聞いたときは愕然とした。週払いの意味がほとんどないのではないかと。それでも、毎週1万5000円入るのは助かる。給料日が月に1度ではどうしようもないほどに困っているのだ。少しでも、わずかでも、毎週金が入るに越したことはない。それが1カ月後から、というのが不満ではあったけど、これも受け入れなければいけない。そういう状況に陥っているのだ。
それらの説明を受けたあと、担当の車に乗って工場へ。馴染みのある風景が目に入る。以前勤めていた、4月から9月まで働いていた小さな工場がすぐ近くにあるのだ。地図では確認していたけれど、実際に見るとやはりどきどきする。派遣先の工場までは車で行けないのか、コンビニの駐車場に車を停める。このコンビニが、どちらの工場からも一番近いコンビニである。買い物する気もないのに、コンビニの駐車場に車を停めるとは、このようなことに慣れているのだろう、と担当に対して思う余裕もない。
車を降りて、担当と一緒に歩いて工場へ向かう。歩いて5分も掛からない。通勤時間は、以前の工場と同じくらいか。コンビニへは行かないようにすれば大丈夫。なんとかなるはず、と考えながら、担当のあとに続く。かなり大きな工場で、とんでもない数の自転車が道路に停められていた。道路を挟んだ側の建物も、同じ会社の工場がらしい。そのせいか、道路を自転車置場として使っているみたい。
担当がいなくなり、入口で少し待たされた。工場の人間と話してきたのだろう、そのあとに工場を見学することになった。いつかの派遣会社では、工場の担当、派遣の担当と一緒に見学や説明を受けることが多かったけど、ここでは、派遣の担当が説明や見学を受け持っていた。
予想はしていたけれど、かなり古い工場だった。暖房が入っているのだろうけど、工場が広いせいか、それはほとんど効いていないようだった。これは、大きな工場や倉庫では良くあることなので、気に掛けることではない。寒ければ厚着をして対策をすれば良い。仕事の様子は見ても良く解らないけれど、初心者にもできる仕事なのだろう、という感じ。
一通り工場を回ったあとで、担当が 改めて訊いてきた。ここで働く気があるかどうかと。断る理由はない、というか、断るわけにはいかなかった。お願いしますと答えると、担当はまた、しつこいくらいに念を押してきた。無理なら無理と言ってください、採用になったら、もう断れませんよ。いい加減うんざりなんだが、大丈夫です、と僕は答えた。すると、担当はまたいなくなり、戻ってきて採用が知らされた。工場から出るときに、作業服を着てフォークに乗った社員らしい人の何人かに、これからお世話になります、と頭を下げたくらいで、見学と面接は終わった。バックレたときはどうなることかと思ったけれど、とにかくこれで、再び仕事持ちである。あとはもう、がつがつ金を稼ぐだけ。
コンビニ駐車場に戻り、車の中で改めて説明を聞く。正式に決まったことで、何枚かの書面に記入する。作業条件については、既に聞いているし、受け入れている。あとは、いつから働くかである。できるだけ早い日、必要な耳栓とベルトを買ったのなら、すぐにでも行けます、と答えはしたものの、会社カレンダを見せられて愕然とした。
今日が金曜なので、週明けの月曜から働くとして7連勤。え、7連勤? いや、休日出勤は考えていたけれど、そんなにいきなりとは思わなかったのだ。それに、初めての仕事で、慣れる前から7日連続出勤って、いきなり潰れそうな気がする。担当は、年末年始の休みに入るので、この週だけが特別だと説明したのだが、最初から危ない橋は渡れない。出勤開始を遅らせてもえるよう頼み、5日出勤して、年末年始の休みに入るようにしてもらった。つまり、クリスマスイブから始める仕事である。
利点としては、派遣でも天引きで弁当を注文できること。日給1万円越え、給料週払い(予想より少なくなったけど)くらいか。1日1万円生活は、これまでに1度もなかったし。やろうとしたことはあったけど、できたことはなかったので、今回が初めての1日1万円生活になる。これをモチベーションにして頑張ろう。
そう考えて、仕事の決まった4連休だからと、宮本むなしでかつ重とかけうどんのセットを食べてくることにした。明らかに避けているんだよな。担当がしつこいくらいに、出勤日に来ないのはやめてくれ、辞めるのなら今にしてくれ、それならまだなんとかできる、と言っていたことを。なんでそんな念押しをするのか、それを考えると泥沼になりそうだから、考えようとはしなかったのだ。
そんなわけで、初出勤の日。クリスマスイブから始めた仕事である。例のコンビニ前で担当と待ち合わせ、僕が来たことにかなり安心していたみたい。だからそれが不安なんだって。どういう仕事を紹介してるんだよ。そのことは考えないようにして、車の中で最後の説明を受ける。そのあと、担当と一緒に工場へ。
通常の出勤時間よりも早くに来たので、弁当の頼み方やロッカや着替えの場所を担当から教わる。なんで派遣の担当が工場の説明をするんだ、と妙な気はしたけれど。ロッカ前で待っているよう言われて、しばらくしたら、担当が作業服を持ってきた。それに着替えるのだが、帽子が小さ過ぎる。明らかに女性用では、と思える大きさで、仕事の前から杜撰なことにうんざりする。
ロッカもふたりでひとつを使うと聞いていたけれど、通常の大きさではなく、小さなロッカをふたりで使うとは聞いていなかった。作業服が入るバックを持ってくるように言われていたのだが、そのバック自体が入らない。バックなど持ってこさせないで、作業服は紙袋に入れたまま、持ち帰らせれば良かったのでは。担当がロッカを初めて見たとは思えないし。
それでも、口に出すわけにはいかない。帽子は担当が別のをもらってくるというので、それまでは小さいものを使うことにした。というか、入らないので載せているだけである。どんな間抜けなのか。始業時間が近づいて、多くの従業員が集まり、適当にその中に混ざった。朝礼かと思ったら、ラジオ体操だった。これも聞いていなくて、事前に考えていた時間よりも、15分早くに出勤しなければいけなかった。初日して不備が多い。
体操のあとに仕事が始まる。担当はここでいなくなった。とりあえず、作業場のリーダっぽい人から案内された場所へ行って仕事を始める。言い方は悪いのだが、1年振りにDQNばかりの職場、みたいな。指示系統が上手く取れていないのだ。
僕はリーダに指示されたことをやっていたのだが、おそらくはバイトだろう、あるいは別の派遣会社の従業員が、その仕事ではなく別の仕事をやれと言ってくる。中国の人なのか、片言で早口で解りにくい。それでも、言われたように仕事をしていると、リーダが戻ってきて、なんでそんな仕事をしているのか、と言ってきた。経緯を話すと、お前の上司は俺だから、他の奴の言うことは聞かなくて良い、と先程の仕事に戻された。中国の人の名前を知らなかったので、正確に誰に指示された、と言えないのが残念だったけど。
こんな感じの、こんな雰囲気の職場で。どうにもやりにくいなあ、ということは感じていた。それでも、続ける気でいたので、どうにか話ができる、話の通じる人をどうにか見つけた。ひとりは、同じ派遣会社から来ている人で、長年勤めている人。もうひとりは、アルバイトっぽいけれど、質問をすれば、ちゃんと答えてくれる女の人。訊いてもなあなあで済ます人や、質問自体に答えられない人が多いのだ。リーダが常に近くにいるわけではないので、解らないときにそれを訊ける人がいるのは助かった。わずかでも支えにはなる。
昼休みに食堂へ行った。食堂というか、食事を取る部屋である。厨房があるわけではない。初めてなので、食堂の使い方が解らず、訊ねた人が無愛想だった、ということには目を瞑ろう。前の職場と違い、昼食を食べる席は充分に余っていたのだ。ただ、この日は、昼休みが遅かったからである。リーダに聞いたところ、週に1度、昼休みが遅いときがあるという。これは作業グループで1班だけが、遅い時間に昼休みを取るみたい。1班だけというのが良く解らないが、ここではそのようにしているのだから仕方がない。
また、なんとかの日(わざと暈して書いている)には、社員の会議で食堂を使うので、昼休みが遅くなるという。更に、弁当を頼むことができない。そして、そのなんとかの日は毎月変わるようで、日にちが固定されていない。昼休みの遅れはともかく、弁当を頼めない日が、月に1度あるということで。その日は、パンかおにぎりか、何かを買っていくしかないだろう。
作業内容は単調で。寒いの我慢すればどうにかなりそうな。ハンドリフトを使って材料を持ってくる、というのが予想外だった。これまで、何度か倉庫の仕事をしているので、パレットに載った荷物をハンドリフトで運ぶことはできるけど、ある程度の重さのものは、フォークリフトで運んでもらっていた。つまり、バイトが運ぶパレットは制限されていたのだ。
ここでは、その重さの荷物を運ぶのか、ということに驚いた。リーダがフォークを担当してるのだが、他にフォークの人間を見掛けないのだ。いや、見ていないわけではないけれど、別の作業場に行っているみたいで、工場の大きさに対して、フォークの人数が少ないような気がする。
そのため、僕が作業で使う材料は、自分で持ってきて、更にそれを加工する機械の隣へ持ってこなければいけない。加工された商品は、逆の手順で外へ持っていく。寒さの中で、足腰を痛めるので、きついといえば、この繰り返しがきつかった。しかし、辞めるわけにはいかない。とにかく、1日1万円生活をモチベーションに。
終業時間が近づくと、入れ替わりに夜勤の人たちがやってきた。日勤の人とは色の違う作業服を着ている。8時から20時までの12時間拘束。初日は早く行ったから、12時間より少し長いけれど。ともかく、初日の仕事はどうにか終えた。リーダに、続けられそうか訊かれたので、大丈夫です、頑張ります、と答えた。
ロッカに戻ったら、ふたりで使っているロッカを、夜勤の人も一緒に使うようで、もはやこれ以上詰め込めない状態になっていた。明らかに、毎日使うものを置いていくのは無理である。自転車通勤なので、作業服を着たまま出勤できるのは助かる。電車通勤で作業服を着るのは躊躇いがあるけれど、自転車通勤ならそれほどの抵抗はない。直近の派遣で、作業服での出勤は駄目だと言われたこともあり、作業服で帰れるだけでも嬉しかった。
自宅に戻って、派遣担当に連絡をした。初日の仕事が終わったら、電話をするように言われていたのだ。リーダに言ったのと同じく、これからも続けようと思います、大丈夫です、頑張ります、と伝えた。電話のあとで、行かないつもりだったけど、どうにか初日の仕事を終えたので、最寄りスーパへ行くことにした。
クリスマスイブだからと、フライドチキンにロールケーキ、買ったことのない、カクテルを2本買ってきた。とはいえ、拘束12時間15分、実働10時間20分の仕事はしんどい。腰もかなり痛かった。飲み食いしたあと、すぐに寝た。明日以降も仕事があるのだ。
人は人に影響を与えることもできず、また人から影響を受けることもできない。
午後に起きた。さすがに、何も考えないわけにもいかない。制服はロッカに残してあるけれど、ロッカの鍵を持ってきたままである。これは返さなければいけない。無断欠勤、続いて、無断退職する手前、職場まで返しに行くことは憚られる。というか、怖いだけである。卑怯ではあるけれど、鍵は郵送で返すことにした。もう辞めると決めたので、寝ていても意味がない。すぐに切手を買ってきて、鍵を返す準備をする。さすがに、自分の名前と住所を書かないわけにはいかない。この会社との関わりはこれで最後だと勝手に決めて、自宅近くのポストへすぐさま投函してくる。はい、おしまい。
同じ日に登録をした、もうひとつの派遣会社に電話を掛ける。実は1度、携帯電話に着信が残っていたのだが、もうひとつの仕事を始めたこともあり、そのまま放置していたのだ。しかし、状況が変わった今となっては、こちらから掛け直さねばならない。面接から2週間以上が経つけれど、12時間拘束のあの仕事なら、そう簡単に人は集まっていないだろう。労働時間が長い分、給料も多く入るのだ。それならそれで構わない。
冷静に考えると、支離滅裂なんだけど、とにかく次の仕事を探すが優先になっていた。焦って仕事を探すべきではない。それは解っているのだけれど、とにかくお金が必要で、働かなければいけない状況に陥っているのでどうしようもない。給料が多くて、週払い可能。そこにしがみつこうとしているのだ。
予想通り、採用枠はまだ残っていた。明日面接をしてもらうことになった。展開が早いのはありがたい。最初に応募した求人がどうなったのか、連絡をくれたのはどの仕事のことだったのか、これらはまったく訊かなかった。面接に行った時点で、望み薄だと感じていたのだ。どちらにしろ、新しい仕事が見つかるのならそれで良い。まあ、訊くだけ訊いてみても良かったけれど、次の仕事に応募できるかどうか、12時間拘束の仕事を始められるかどうか、そちらの方が気になっていたのだ。
工場最寄り駅まで自転車で行き、そこで担当者と合流。車の中で説明を受け、そのあとに工場へ行くという流れ。喫茶店での面接でなくて助かった。もっとも、面接というものはなく、工場を見学したあとで僕が大丈夫と言えば、まず採用してもらえるとのこと。そうなれば、お願いします、と言うしかない。もう、あとがないのだ。
本社で説明を受けたときと、仕事内容が違ったり、出勤時間が違ったり、耳栓とベルトが必要だとか、知らない条件がいくつも出てきたけれど仕方がない。ある程度の不満はあっても当たり前だろう。とにかく、枠が空いていた、ということに感謝しなければ。
仕事に対しては、与えられたことをやるしかない、と割り切っていた。訊きたかったのは週払いのことで、少しでも早くお金が必要な僕には、こちらの方が重要だったのだ。税金のこともあるし、1日分を全額支払ってくれるは考えていなかったけど、まさか3000円とは予想していなかった。何時間働こうが1日3000円、月から金の5日分を週払いで、1万5000円。その上、手続きをするのに1週間掛かり、年末年始は週払いがない。来週から仕事を始めても、最初に支払われる給料は1月16日になるという。1カ月もあとになる。
これを聞いたときは愕然とした。週払いの意味がほとんどないのではないかと。それでも、毎週1万5000円入るのは助かる。給料日が月に1度ではどうしようもないほどに困っているのだ。少しでも、わずかでも、毎週金が入るに越したことはない。それが1カ月後から、というのが不満ではあったけど、これも受け入れなければいけない。そういう状況に陥っているのだ。
それらの説明を受けたあと、担当の車に乗って工場へ。馴染みのある風景が目に入る。以前勤めていた、4月から9月まで働いていた小さな工場がすぐ近くにあるのだ。地図では確認していたけれど、実際に見るとやはりどきどきする。派遣先の工場までは車で行けないのか、コンビニの駐車場に車を停める。このコンビニが、どちらの工場からも一番近いコンビニである。買い物する気もないのに、コンビニの駐車場に車を停めるとは、このようなことに慣れているのだろう、と担当に対して思う余裕もない。
車を降りて、担当と一緒に歩いて工場へ向かう。歩いて5分も掛からない。通勤時間は、以前の工場と同じくらいか。コンビニへは行かないようにすれば大丈夫。なんとかなるはず、と考えながら、担当のあとに続く。かなり大きな工場で、とんでもない数の自転車が道路に停められていた。道路を挟んだ側の建物も、同じ会社の工場がらしい。そのせいか、道路を自転車置場として使っているみたい。
担当がいなくなり、入口で少し待たされた。工場の人間と話してきたのだろう、そのあとに工場を見学することになった。いつかの派遣会社では、工場の担当、派遣の担当と一緒に見学や説明を受けることが多かったけど、ここでは、派遣の担当が説明や見学を受け持っていた。
予想はしていたけれど、かなり古い工場だった。暖房が入っているのだろうけど、工場が広いせいか、それはほとんど効いていないようだった。これは、大きな工場や倉庫では良くあることなので、気に掛けることではない。寒ければ厚着をして対策をすれば良い。仕事の様子は見ても良く解らないけれど、初心者にもできる仕事なのだろう、という感じ。
一通り工場を回ったあとで、担当が 改めて訊いてきた。ここで働く気があるかどうかと。断る理由はない、というか、断るわけにはいかなかった。お願いしますと答えると、担当はまた、しつこいくらいに念を押してきた。無理なら無理と言ってください、採用になったら、もう断れませんよ。いい加減うんざりなんだが、大丈夫です、と僕は答えた。すると、担当はまたいなくなり、戻ってきて採用が知らされた。工場から出るときに、作業服を着てフォークに乗った社員らしい人の何人かに、これからお世話になります、と頭を下げたくらいで、見学と面接は終わった。バックレたときはどうなることかと思ったけれど、とにかくこれで、再び仕事持ちである。あとはもう、がつがつ金を稼ぐだけ。
コンビニ駐車場に戻り、車の中で改めて説明を聞く。正式に決まったことで、何枚かの書面に記入する。作業条件については、既に聞いているし、受け入れている。あとは、いつから働くかである。できるだけ早い日、必要な耳栓とベルトを買ったのなら、すぐにでも行けます、と答えはしたものの、会社カレンダを見せられて愕然とした。
今日が金曜なので、週明けの月曜から働くとして7連勤。え、7連勤? いや、休日出勤は考えていたけれど、そんなにいきなりとは思わなかったのだ。それに、初めての仕事で、慣れる前から7日連続出勤って、いきなり潰れそうな気がする。担当は、年末年始の休みに入るので、この週だけが特別だと説明したのだが、最初から危ない橋は渡れない。出勤開始を遅らせてもえるよう頼み、5日出勤して、年末年始の休みに入るようにしてもらった。つまり、クリスマスイブから始める仕事である。
利点としては、派遣でも天引きで弁当を注文できること。日給1万円越え、給料週払い(予想より少なくなったけど)くらいか。1日1万円生活は、これまでに1度もなかったし。やろうとしたことはあったけど、できたことはなかったので、今回が初めての1日1万円生活になる。これをモチベーションにして頑張ろう。
そう考えて、仕事の決まった4連休だからと、宮本むなしでかつ重とかけうどんのセットを食べてくることにした。明らかに避けているんだよな。担当がしつこいくらいに、出勤日に来ないのはやめてくれ、辞めるのなら今にしてくれ、それならまだなんとかできる、と言っていたことを。なんでそんな念押しをするのか、それを考えると泥沼になりそうだから、考えようとはしなかったのだ。
そんなわけで、初出勤の日。クリスマスイブから始めた仕事である。例のコンビニ前で担当と待ち合わせ、僕が来たことにかなり安心していたみたい。だからそれが不安なんだって。どういう仕事を紹介してるんだよ。そのことは考えないようにして、車の中で最後の説明を受ける。そのあと、担当と一緒に工場へ。
通常の出勤時間よりも早くに来たので、弁当の頼み方やロッカや着替えの場所を担当から教わる。なんで派遣の担当が工場の説明をするんだ、と妙な気はしたけれど。ロッカ前で待っているよう言われて、しばらくしたら、担当が作業服を持ってきた。それに着替えるのだが、帽子が小さ過ぎる。明らかに女性用では、と思える大きさで、仕事の前から杜撰なことにうんざりする。
ロッカもふたりでひとつを使うと聞いていたけれど、通常の大きさではなく、小さなロッカをふたりで使うとは聞いていなかった。作業服が入るバックを持ってくるように言われていたのだが、そのバック自体が入らない。バックなど持ってこさせないで、作業服は紙袋に入れたまま、持ち帰らせれば良かったのでは。担当がロッカを初めて見たとは思えないし。
それでも、口に出すわけにはいかない。帽子は担当が別のをもらってくるというので、それまでは小さいものを使うことにした。というか、入らないので載せているだけである。どんな間抜けなのか。始業時間が近づいて、多くの従業員が集まり、適当にその中に混ざった。朝礼かと思ったら、ラジオ体操だった。これも聞いていなくて、事前に考えていた時間よりも、15分早くに出勤しなければいけなかった。初日して不備が多い。
体操のあとに仕事が始まる。担当はここでいなくなった。とりあえず、作業場のリーダっぽい人から案内された場所へ行って仕事を始める。言い方は悪いのだが、1年振りにDQNばかりの職場、みたいな。指示系統が上手く取れていないのだ。
僕はリーダに指示されたことをやっていたのだが、おそらくはバイトだろう、あるいは別の派遣会社の従業員が、その仕事ではなく別の仕事をやれと言ってくる。中国の人なのか、片言で早口で解りにくい。それでも、言われたように仕事をしていると、リーダが戻ってきて、なんでそんな仕事をしているのか、と言ってきた。経緯を話すと、お前の上司は俺だから、他の奴の言うことは聞かなくて良い、と先程の仕事に戻された。中国の人の名前を知らなかったので、正確に誰に指示された、と言えないのが残念だったけど。
こんな感じの、こんな雰囲気の職場で。どうにもやりにくいなあ、ということは感じていた。それでも、続ける気でいたので、どうにか話ができる、話の通じる人をどうにか見つけた。ひとりは、同じ派遣会社から来ている人で、長年勤めている人。もうひとりは、アルバイトっぽいけれど、質問をすれば、ちゃんと答えてくれる女の人。訊いてもなあなあで済ます人や、質問自体に答えられない人が多いのだ。リーダが常に近くにいるわけではないので、解らないときにそれを訊ける人がいるのは助かった。わずかでも支えにはなる。
昼休みに食堂へ行った。食堂というか、食事を取る部屋である。厨房があるわけではない。初めてなので、食堂の使い方が解らず、訊ねた人が無愛想だった、ということには目を瞑ろう。前の職場と違い、昼食を食べる席は充分に余っていたのだ。ただ、この日は、昼休みが遅かったからである。リーダに聞いたところ、週に1度、昼休みが遅いときがあるという。これは作業グループで1班だけが、遅い時間に昼休みを取るみたい。1班だけというのが良く解らないが、ここではそのようにしているのだから仕方がない。
また、なんとかの日(わざと暈して書いている)には、社員の会議で食堂を使うので、昼休みが遅くなるという。更に、弁当を頼むことができない。そして、そのなんとかの日は毎月変わるようで、日にちが固定されていない。昼休みの遅れはともかく、弁当を頼めない日が、月に1度あるということで。その日は、パンかおにぎりか、何かを買っていくしかないだろう。
作業内容は単調で。寒いの我慢すればどうにかなりそうな。ハンドリフトを使って材料を持ってくる、というのが予想外だった。これまで、何度か倉庫の仕事をしているので、パレットに載った荷物をハンドリフトで運ぶことはできるけど、ある程度の重さのものは、フォークリフトで運んでもらっていた。つまり、バイトが運ぶパレットは制限されていたのだ。
ここでは、その重さの荷物を運ぶのか、ということに驚いた。リーダがフォークを担当してるのだが、他にフォークの人間を見掛けないのだ。いや、見ていないわけではないけれど、別の作業場に行っているみたいで、工場の大きさに対して、フォークの人数が少ないような気がする。
そのため、僕が作業で使う材料は、自分で持ってきて、更にそれを加工する機械の隣へ持ってこなければいけない。加工された商品は、逆の手順で外へ持っていく。寒さの中で、足腰を痛めるので、きついといえば、この繰り返しがきつかった。しかし、辞めるわけにはいかない。とにかく、1日1万円生活をモチベーションに。
終業時間が近づくと、入れ替わりに夜勤の人たちがやってきた。日勤の人とは色の違う作業服を着ている。8時から20時までの12時間拘束。初日は早く行ったから、12時間より少し長いけれど。ともかく、初日の仕事はどうにか終えた。リーダに、続けられそうか訊かれたので、大丈夫です、頑張ります、と答えた。
ロッカに戻ったら、ふたりで使っているロッカを、夜勤の人も一緒に使うようで、もはやこれ以上詰め込めない状態になっていた。明らかに、毎日使うものを置いていくのは無理である。自転車通勤なので、作業服を着たまま出勤できるのは助かる。電車通勤で作業服を着るのは躊躇いがあるけれど、自転車通勤ならそれほどの抵抗はない。直近の派遣で、作業服での出勤は駄目だと言われたこともあり、作業服で帰れるだけでも嬉しかった。
自宅に戻って、派遣担当に連絡をした。初日の仕事が終わったら、電話をするように言われていたのだ。リーダに言ったのと同じく、これからも続けようと思います、大丈夫です、頑張ります、と伝えた。電話のあとで、行かないつもりだったけど、どうにか初日の仕事を終えたので、最寄りスーパへ行くことにした。
クリスマスイブだからと、フライドチキンにロールケーキ、買ったことのない、カクテルを2本買ってきた。とはいえ、拘束12時間15分、実働10時間20分の仕事はしんどい。腰もかなり痛かった。飲み食いしたあと、すぐに寝た。明日以降も仕事があるのだ。
人は人に影響を与えることもできず、また人から影響を受けることもできない。


