ハケンアニメ(上)

 僕が派遣会社を敬遠していた理由は、最初に登録した派遣会社の対応が余り良くなかった、ということもあるのだけれど、単純に、派遣会社を介した分、採用までの時間が長くなる、という理由があった。直接雇用のアルバイトなら、面接で即決、翌日から勤務開始、ということもある。面接で即決、翌日勤務は実際にあったし、即決でなくても、当日中に採用連絡が来ることも何度かあった。
 ITとかテレアポとか、高時給の派遣ならともかく、僕ができる仕事、採用される仕事は、アルバイトでも派遣でも時給に大差はない。それなら、連絡の遅い派遣会社を頼るより、直接雇用のアルバイトを探そうと考え、派遣会社の登録は最初の1回だけで、以降ずっと、直接雇用のアルバイトを続けてきた。
 ただ、同じような条件で仕事を探していると、さすがに求人の数が限られてくる。かつて勤めていた仕事、採用を断られた仕事が求人誌に載ることもあったけど、もう1度応募しようとは思えなかった。求人がないから、応募しないというわけにもいかず、ここはもう、派遣の仕事であろうと応募するしかない、という状況に陥ったのが、去年の12月。前の仕事を辞めてから、つまりは無職65日目のこと(1日で辞めた仕事は数えていない)。
 みたいに書いているけれど、正確にはこの間にもいろいろあって。採用された仕事に行かない、次に採用された仕事にも行かない、採用された仕事を1日で辞めてしまう。そして酒をがーっと飲んでいるうちに、お金がなくなってしまった。

 12月初め、午前と午後で別の派遣会社の面接を受けることにした。詳しくは知らないけれど、午前の会社は派遣事業と請負事業の両方を行っているみたい。それでいて、募集は契約社員とアルバイトになっているという求人だった。それでも、仕事内容や勤務地の都合が良かったので、応募することにしたのだ。現地面接というものを、初めて受けることになった。
 その日はあいにくの雨で。傘を持って電車に乗る。工場最寄り駅で待ち合わせ。面接担当者はすぐに見つかって、近くの喫茶店へ向かう。白髪の混ざった年配のおっさんだった。面接を喫茶店ですることは聞いていたのだが、その場合、何も頼まないわけにはいかないだろう。コーヒーにしろ、紅茶にしろ、少なくない額の代金を払うことに躊躇いがあった。喫茶店などほとんど行ったことがないし、何より、金がほとんどない。コーヒー1杯で、今日の往復の交通費になる。
 そんなみみっちいことを考えながら席についた。当然、向かい合う形になる。仕方ない、飲み物を頼む、頼まないで印象を悪くするのもアホウらしい。一番安い飲み物を頼もうと決めたのだが、幸いなことに、担当が出してくれるというので、ミルクティーを頼んだ。喫茶店の紅茶が飲みたいわけではなく、水を向けられたからである。まあ、普通に考えれば、担当ひとりだけが飲む、というわけにはいかないよな。しかし、店員のおばちゃんが持ってきたのは、レモンティーだった。いちいち指摘はしない。担当は、間違いに気づいていないみたいだった。僕も気づいていない振りをする。
 それなりに混雑していて、騒がしいけれど、話ができないほどではない。最初に、筆記試験と適性検査を受けた。筆記試験はSPIのようなもので、適正検査は指定された数字を探したり(『ワギャンランド2』みたいな)、ネジにボルトを嵌めて所定の位置に並べるものだった(これと似たようなことは、最初に登録した派遣会社でもやった)。どちらも難しくはないのだが、目の前で見ていられると、やりにくいものがあった。
 そのあとで、契約書のようなものを書き、仕事の説明を受けた。派遣先の工場で働くというので、やはり派遣会社みたい。何人かの派遣社員がその工場で働いているようである。説明を聞く限り、仕事の内容に問題はなかった。出勤日や労働時間も。残業も強制ではない。
 気になったのが、僕の住所を確かめて、自転車で来られる距離だと決めつけてきたこと。地図を見て、自転車で行ける距離だとは思ったけれど、交通費次第では電車で行こうと考えていたのだ。特に、今日のような雨の日は、電車の方が都合が良い。けれど、交通費にこだわって印象を悪くするのもどうかと思い、自転車でいきますと答えた。なんというか、交通費を払うのなら採用しない、という感じがしないでもなかったからだ。
 そのあとに、給料の説明を受けた。社会保険が強制加入ではない、というのは助かる。少しでも、給料の額は減らしたくない。自転車なら、交通費は掛からない。まあ、かつかつではあるけれど、このくらいの条件が妥当だろう。これより好条件になると、採用の確率が低くなる。
 時給900円の8時間労働で、どうにか凌がなければ、と考えていたのだが。時給の説明で妙な点があった。書面を見ながら説明を聞いていたのだけれど、そこに書いてある時給が求人誌に載っていたものとは違うのだ。100円加算されて、時給1000円ってことか、求人には書いてなかったけれど。訊ねてみると、そうではなくて。
 本来の時給は800円で、そこになんとか代が加わって、時給900円になるのだという。なんとか代ってのは忘れた。なんとか費とかなんとか料だったのかもしれないけれど、聞き覚えのない名前だったので覚えていない。なんとか代がなんでも良いが、時給が求人通りの900円ならそれで良い。そう考えていたら、驚くべきことを知らされた。
「1日休むと、その月の時給が80円減ります」
 なんですと?
「2日休むと、更に時給が80円減ります」
 なんですと?
「ですから、用事があって休むスタッフは、みんな早退で対応しています。それなら、時給は減りません」
 いや、いや、いや。おかしくないか。用事があろうが、体調が悪かろうが、欠勤したら時給が減るってことだろう。なんだそれは。明らかに、頷きにくい条件だったけど、ここで断って、午後の面接で受かる保証もない。というか、この仕事さえ、受かるかどうかが解っていないのだ。ここは受け入れておくしかない。
 休まず仕事に行くのは当たり前のことだし、むしろ、前向きに考えよう。休むと時給が減ってしまうから、休まずに仕事に行こう。よし、そうしよう。この場ではそう考えたけど、明らかに前向きの考えではない。けれどこのときは、条件を前向きに捉えるしかなかったのだ。
 はい、大丈夫ですと返事をして、これから派遣先の工場へ行くことになった。工場見学のち工場の採用担当との面接。担当の車で連れていってくれるという。展開が早いのは助かる。担当が、工場へ電話を掛けたのだが、先方の都合が悪く、これからすぐは無理のようだ。なんだそれは。14時からなら大丈夫だと、担当が僕に言うのだが、僕が大丈夫ではない。午後には他の派遣会社の面接があるのだ。採用が確実であれば、午後からの面接を断ったけど、そこまで踏み込んで訊けなかった。
 午後からは別の会社の面接があることを告げた。並行して仕事を探しているのだから、正直に話すしかない。工場見学は明日にしてもらい、午後は予定通り、もうひとつの派遣会社へ行くことにした。可能性は薄いけれど、こちらの方が即時採用してくれるのであれば、当然、明日の工場見学は断ることになる。この時点では、どちらの派遣会社も平等に考えていたのだ。
 面接は1時間くらいで終った。自宅最寄り駅近くの酒屋の自販機で酒を買って帰る。午後からの面接まで2時間ほど時間があるし、ちょっと肩透かしな面接だったと感じていたせいもある。もっと単純に、この時期は無職でありながら、ほぼ毎日酒を飲んでいたので、面接前でも抵抗がなく飲めてしまったのだ。日本酒の180mlくらいと。

 午後の面接は、歩いていける隣接市。傘を差して家を出る。ほとんど酔っていないので大丈夫だろう。余裕を持って家を出たので、駅前商店街で適当に時間を潰してから本社ビルへ。説明担当だろう女の人が、ふたりしかいなかった。大手の派遣会社ではないのだろう。まあ、会社の規模を気にしても仕方がない。採用されるか、されないかが問題なのだ。
 これまでと同じく、履歴書を渡したものの、派遣会社独自の履歴書のようなものに記入する。そのあとで、女性担当者からの仕事説明。ここは、筆記試験も実技試験もなかった。けれど、応募した求人とは違うものを紹介された。まあ、予想していた展開だけど。こちらの求人であれば、すぐに面接を受けられますよ、とのこと。
 自転車通勤でも構わないと言ったので、こちらを紹介してくれたのだろうけど、そこは前に辞めた仕事、4月から9月まで勤めていた職場のすぐ近くだった。住所からの判断なので、確実ではないのだが、おそらくかなり近い。これは不味い。工場の名前に聞き覚えはなかったので、向かいにあるとか、隣にあるとかではないけれど、即答はできなかった。よろしくない辞め方をした職場の人に、新しい仕事を始めて会ってしまうという状況は避けたい。 
 それに、労働条件が厳しい。8時から20時まで。残業があるときは12時間なのかと思って訊ねたら、残業ではなく定時、常に拘束12時間ということである。明らかに躊躇われる求人だった。利点としては、時給920円の実働10時間20分なので、1日働けば約1万円が入ること、こちらの派遣会社は週払いで給料が入ることくらいだった。
 時間が掛かっても仕方がない。最初に応募した求人を優先することにした。もし、そこが駄目だったら、こちらの求人を考えてみます。ここも1時間くらいで面接は終わった。試験がなかった分、多少短かったというくらい。
 隣接市へ来たので、帰りに宮本むなしへ寄った。ハンバーグ定食。午前の面接が即決だったら、あるいは、午後の面接が即決だったら、採用祝いに宮本むなしへ行こう、と考えていたのだ。まあ、そんな都合の良い展開はなかったわけだが。どちらの派遣会社も肩透かしで、いろいろと疲れてしまったので、お金はないけれど、宮本むなしで食事をして少しでも元気を出そうと考えたのだ。とりあえず、美味しいものを食べれば気持ちは良くなる。
 自宅に戻って、突然に紹介された求人の工場を調べてみた。確かに、以前の工場と近いけれど、道路を一本挟んでいるので、通勤時に知り合いに会うことはなさそうだった。一番近いコンビニが同じだったけど、食事をコンビニで買うことはないので問題はない。万一のときは、ここも視野に入れておこう。
 この時点での優先順位は、午前に受けた面接の方で。バカみたいに稼ぐ必要はないので、充分といえば充分である。休むと時給が減る、という不安はあるけれど。午後の面接は、最初に応募した求人が通るのが理想だけれど、こちらは難しいだろう。派遣会社から紹介してもらえない以上、どうすることもできない。いつまでも待つ余裕はないのだ。応募できるのは、12時間拘束の仕事、と考えておいた方が良い。
 夜になって、自販機へ酒を買いに行く。明らかに飲み過ぎなんだが。それは充分に解っているけれど、酒を飲まなければどうしようもないくらいに不安だったのだ。
大食いは地球環境を破壊している、といっても過言ではない。

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もぐさ。僕っ子(大嘘)

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30代フリーター。アルバイトで食いつないでいます。

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