上役のいない木曜日
2カ月か3カ月に1度、社員は公休を取っているようだけど、僕の作業場にいる社員は上司ひとりだけである。若い社員が辞めて4カ月が経つというのに、新人も、引き継ぎも入っていない。午前と午後で、別の場所から社員を呼んで、作業を手伝ってもらっている状況(という書き方をすると、作業内容が変わったあとも、僕が仕事を続けていることのネタばらしになってしまうのだが仕方がない。「人手不足の4カ月」という記事を近いうちに書こう)。
これまでは、上司が休みの日には若い社員が、若い社員が休みの日には上司がいたので、公休をいつ取ろうが構わなかったけど、社員が上司ひとりだと困ることになる。僕が担当する機械が何台かあるけれど、それらの立ち上げや停止作業、不備が起きたときの対処は社員が行う。僕ができるのは、指示された通りに機械を動かすことだけ(派遣なんだもの)。つまり、ただひとりの社員がいないと、僕のできる仕事がなくなってしまうのだ。
若い社員が辞めた時点で、上司が休みの日はどうするのだろう、という不安はあった。人手不足を理由に、公休を取らせないということはないだろう。考えても仕方がないので、考えないようにしていた。それで4カ月が過ぎたので、社員が出勤する土曜を公休にして、僕に影響が出ないようにしてくれているのかと思ったけれど、そういうことでもなかった。社員の土曜出勤が頻繁にあるわけではないので、そう都合良くもいかないのだろう。
今週の木曜、上司が公休で休むことを知らされた。別の部署の社員に頼んでおくので、その日はそこで作業をして欲しいと言われた。ここへ来て、初めての作業場で、新しい作業をするのは億劫だった。加工過程が違うわけだから、仕事は別のものになる。それが僕にできるものか、簡単な作業か、難しい作業か、失敗したり間違えたりしないだろうかと心配になった。
これまでに何度か別の作業場で仕事をしているけれど、それらは同じ部署の別の場所で、それなりに話したことのある社員のいるところだった。ロッカのおっさんや、パートのおばちゃんがいるという安心感があった。
今回の別の部署とは、朝礼で会ったときに挨拶をするくらいで、性格も何もまったく知らない人たちがいる場所での作業ということになる。何度も書いているけれど、普通の人が簡単にできるようなことでも、僕は不安で心配で落ち込んでしまうのだ。別の部署には行きたくありません、と言えるはずもなく、はい、解りました、と不本意でも答えるしかなかった。
昼休みの間、別の部署での対策を考えていた。まずは、トイレと手洗い場の確認。これだけ把握しておけば、5分休憩に過ごせる場所が見つからなくてもどうにかなる。少し長くトイレに行って、少し長く手を洗い続けていよう。ただ、昼休みをどう過ごせば良いのが解らなかった。引き伸ばして食事をしても、30分は残ってしまうだろう。さすがに、30分もトイレでウンコをしているわけにもいくまい。休憩室のような場所があったとして、僕が入れる雰囲気なのかどうか、その辺りはさっぱりである。
始まる前からこのように鬱々してしまうとは、いっそのこと休んでしまおうかと考えて、それは良い方法ではないかと気がついた。その日僕が休んでも、進める作業は別の部署のものだから、上司にとってそれほど影響はないだろう。理由は適当に作り上げてしまえば良い。ただ、慣れない仕事で別の部署に迷惑を掛けてしまうので、という言い方は不味い。その言い方だと、公休を取る上司が迷惑だと取られ兼ねない。
有休が余っているので、僕もその日は休みましょうか、といった軽い感じで聞こう。実際は残っていないけど、有休の処理は派遣会社がするので、工場には欠勤理由さえ伝えておけば問題ない。そうだ、そうしようと考えて、多少の気掛かりがあったけど、昼休みが終わったあとに、えいやっと上司に話したら、すんなりと受け入れてもらえた。俺が休むからってお前も休むことはないだろう、などと言われることもなくてほっとした。
欠勤扱いになるので、給料が約7000円減るけれど、木曜までを憂鬱に過ごし、木曜はひたすら気を張って仕事をしなければいけない鬱屈に比べたら、1日分の給料と引き換えに休んでも惜しくはない。それこそ、不安や心配で、酒を飲み過ぎてしまうかもしれなかった。とりあえずは一安心。
そんなわけで、今週の木曜は有休を使わないで仕事を休んだのだが。体調不良ではないので、突然の休みとして、酒を飲んだり、録画した映画を見たり、買い物に行ったり、それなりに充実した休日を過ごすことができた。
上司が公休を取るたびに休むのは不味いだろうけど、次は2カ月か3カ月後のはずだから、それはそのときに考えよう。いい加減、新しい社員が入っているかもしれないし、僕の方が先に辞めているかもしれない。
人は人に影響を与えることもできず、また人から影響を受けることもできない。
これまでは、上司が休みの日には若い社員が、若い社員が休みの日には上司がいたので、公休をいつ取ろうが構わなかったけど、社員が上司ひとりだと困ることになる。僕が担当する機械が何台かあるけれど、それらの立ち上げや停止作業、不備が起きたときの対処は社員が行う。僕ができるのは、指示された通りに機械を動かすことだけ(派遣なんだもの)。つまり、ただひとりの社員がいないと、僕のできる仕事がなくなってしまうのだ。
若い社員が辞めた時点で、上司が休みの日はどうするのだろう、という不安はあった。人手不足を理由に、公休を取らせないということはないだろう。考えても仕方がないので、考えないようにしていた。それで4カ月が過ぎたので、社員が出勤する土曜を公休にして、僕に影響が出ないようにしてくれているのかと思ったけれど、そういうことでもなかった。社員の土曜出勤が頻繁にあるわけではないので、そう都合良くもいかないのだろう。
今週の木曜、上司が公休で休むことを知らされた。別の部署の社員に頼んでおくので、その日はそこで作業をして欲しいと言われた。ここへ来て、初めての作業場で、新しい作業をするのは億劫だった。加工過程が違うわけだから、仕事は別のものになる。それが僕にできるものか、簡単な作業か、難しい作業か、失敗したり間違えたりしないだろうかと心配になった。
これまでに何度か別の作業場で仕事をしているけれど、それらは同じ部署の別の場所で、それなりに話したことのある社員のいるところだった。ロッカのおっさんや、パートのおばちゃんがいるという安心感があった。
今回の別の部署とは、朝礼で会ったときに挨拶をするくらいで、性格も何もまったく知らない人たちがいる場所での作業ということになる。何度も書いているけれど、普通の人が簡単にできるようなことでも、僕は不安で心配で落ち込んでしまうのだ。別の部署には行きたくありません、と言えるはずもなく、はい、解りました、と不本意でも答えるしかなかった。
昼休みの間、別の部署での対策を考えていた。まずは、トイレと手洗い場の確認。これだけ把握しておけば、5分休憩に過ごせる場所が見つからなくてもどうにかなる。少し長くトイレに行って、少し長く手を洗い続けていよう。ただ、昼休みをどう過ごせば良いのが解らなかった。引き伸ばして食事をしても、30分は残ってしまうだろう。さすがに、30分もトイレでウンコをしているわけにもいくまい。休憩室のような場所があったとして、僕が入れる雰囲気なのかどうか、その辺りはさっぱりである。
始まる前からこのように鬱々してしまうとは、いっそのこと休んでしまおうかと考えて、それは良い方法ではないかと気がついた。その日僕が休んでも、進める作業は別の部署のものだから、上司にとってそれほど影響はないだろう。理由は適当に作り上げてしまえば良い。ただ、慣れない仕事で別の部署に迷惑を掛けてしまうので、という言い方は不味い。その言い方だと、公休を取る上司が迷惑だと取られ兼ねない。
有休が余っているので、僕もその日は休みましょうか、といった軽い感じで聞こう。実際は残っていないけど、有休の処理は派遣会社がするので、工場には欠勤理由さえ伝えておけば問題ない。そうだ、そうしようと考えて、多少の気掛かりがあったけど、昼休みが終わったあとに、えいやっと上司に話したら、すんなりと受け入れてもらえた。俺が休むからってお前も休むことはないだろう、などと言われることもなくてほっとした。
欠勤扱いになるので、給料が約7000円減るけれど、木曜までを憂鬱に過ごし、木曜はひたすら気を張って仕事をしなければいけない鬱屈に比べたら、1日分の給料と引き換えに休んでも惜しくはない。それこそ、不安や心配で、酒を飲み過ぎてしまうかもしれなかった。とりあえずは一安心。
そんなわけで、今週の木曜は有休を使わないで仕事を休んだのだが。体調不良ではないので、突然の休みとして、酒を飲んだり、録画した映画を見たり、買い物に行ったり、それなりに充実した休日を過ごすことができた。
上司が公休を取るたびに休むのは不味いだろうけど、次は2カ月か3カ月後のはずだから、それはそのときに考えよう。いい加減、新しい社員が入っているかもしれないし、僕の方が先に辞めているかもしれない。
人は人に影響を与えることもできず、また人から影響を受けることもできない。


