えいせい

帝都衛星軌道 (講談社文庫)帝都衛星軌道 (講談社文庫)
島田 荘司

講談社 2009-08-12
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 あれはもう三十年近くも昔のことだ。自分は二十代だった。もしかすると、二十歳そこそこだったかもしれない。軍司。こんなところにいたのか。こんなに近くに。そして、こんな死に方をしていたのか。

 島田荘司氏の『帝都衛星軌道』(文庫版)を読了。ハードカバーの惹句が、「正直言って、自信作です」とあったので、発売当初から気になっていた。文庫落ちして、ようやく購入した次第。表題作、「帝都衛星軌道」を前後編に分けて、間に「ジャングルの虫たち」を挟むという構成。
 身代金15万円という、奇妙な誘拐事件から物語は始まる。警察視点で話が進み、犯人の計略に見事捲かれてしまう。ところが、誘拐された息子は戻ってきて、身代金も返ってくる。被害はなかったかのように思えるが、その数日後、被害者の妻が失踪してしまう。犯人が、連絡用に用いたトランシーヴァーのトリックも、失踪の原因も何も解らず、前編は終了。
 謎解きを放って、別の話に変わってしまったので、早く終わらせて後編を読もうと思ったのだが、この「ジャングルの虫たち」が、また面白い。益子秀司のような天才、軍司純一が、同年代の乞食、平栗修二に、数日間、詐話師の手解きをしていくのだが、テンポが良く、すらすらと読める。ドラマの「流星の絆」みたいな感じで。しかしこの軍司も、数年後、病院の金儲けの道具に使われた末に亡くなってしまう。正しい、正しくない、という道徳観に関係なく、賢い人間はより賢い人間に利用されるのが、当然のようになっている。学問のない人間は、そのことにさえ気づいていない。それが実際、この国の現実なのだよなあ、などと考えさせられてしまうような作品。この時点だと、「帝都衛星軌道」との関わりが解りにくいのだけれど、後編を読んでそれが解る。
 後編は、誘拐事件から6年後、夫が犯人に独自で辿り着き、惹句にあった、「驚愕の真実」、「人を愛することは、哀しい」、「俺はこの、たった1時間が欲しかったんだ」という、すべての謎が明かされる。なんというか、これはすごいな。確かに、東京の路線図って、変な形をしているし。タイトルが格好良いな程度にしか思っていなかったけれど、「帝都衛星軌道」というタイトルが、すべてを表している。東京に住んでいたことも、山の手線でぐるりと1周したこともあるのに、まったく気づかなかった。今後、丸の内線に乗る機会があれば、きっとこの話を思い出すだろう。
 そして、読了後に泣いた。本を読んで泣くというのは久し振り。『犬坊里美の冒険』の感想でも書いたけれど、島田荘司氏が、本格ミステリ要素にだけ特化した作家であったのなら、とうにファンを止めていただろう。そのように考えると、島田荘司氏が推薦した作家たちと、島田氏の作る「本格ミステリー」に祖語が生じるのは、いわば当然のこと。今後も、島田荘司流の、本格ミステリーを楽しみにしている。(2009/12/13)
人は人に影響を与えることもできず、また人から影響を受けることもできない。

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